土木会社のM&Aで公共工事と民間工事の構成を説明するときは、売上比率に加えて、元請・下請の立場、工事別の粗利、回収条件を示します。「公共工事が多いから安定している」「元請だから高く売れる」と一括りにせず、買い手が承継後の受注と資金繰りを判断できる資料を作ることが目的です。この記事では、直近3期の工事台帳から説明資料へまとめる手順を紹介します。
公共・民間と元請・下請を、二つの軸で分ける
公共・民間は工事の発注元、元請・下請は自社の契約上の立場を示す別の区分です。例えば自治体発注の道路工事を建設会社から請け負っている場合、公共工事に関わっていても自社の直接の取引先は民間の元請会社です。この違いを隠さず、集計表に区分の定義を添えます。発注元を確認できない工事は、推測で分類せず「要確認」とします。
| 区分 | 受注を支える条件 | 候補先へ示す資料 |
|---|---|---|
| 公共工事・元請 | 入札参加条件、実績、配置体制 | 発注者別売上、経審結果、入札登録・格付、工事成績 |
| 公共工事・下請 | 主要元請との関係、担当工種と施工能力 | 主要元請一覧、注文書、取引継続年数、単価改定履歴 |
| 民間工事・元請 | 顧客との継続取引、見積力、工程対応 | 顧客別売上、契約条件、追加変更一覧、請求・入金記録 |
| 民間工事・下請 | 専門性、施工班、元請との交渉力 | 元請別売上・粗利、外注費推移、支払条件、施工範囲 |
元請・下請のどちらが常に有利ということはありません。専門下請でも、代替しにくい工種を担い、適切に単価を見直して継続受注しているなら、その根拠が説明材料になります。一方、元請でも赤字工事や回収の遅れが続いていれば、売上規模だけでは収益力を示せません。
比率は同じ期間・同じ基準で計算する
まず直近3期の各工事について、売上計上額を上の区分へ集計し、各期の決算数値と照合します。比率の分母が完成工事高なのか、兼業を含む全社売上なのかを明記し、消費税の扱いも統一します。受注金額、売上計上額、入金額は別の数字なので、同じ表の合計へ混ぜません。
計算例(説明用の架空数値):年間の工事売上が3億円で、公共工事・元請が1億2,000万円、公共工事・下請が6,000万円なら、公共工事関連売上は60%、公共工事の元請売上は40%です。「公共工事60%」だけでは伝わらない受注構造が分かります。これは会社の評価倍率や成約相場を示す例ではありません。
単年度だけでは、大型工事の完成時期や災害復旧工事によって構成比が偏る場合があります。3期の推移と当期の状況を並べ、増減の理由を「工事の一巡」「取引先の発注縮小」「採用に伴う施工班の増加」など、確認できる事実で補足します。
売上・利益・回収をつなぐ資料をそろえる
次に、区分ごとの集計から個別工事の根拠へたどれるよう、資料に共通の工事番号を付けます。特に次の五つがあると、買い手の確認に答えやすくなります。
- 発注者・元請別売上表:直近3期の売上と構成比、主要工種、取引年数を記載。上位先への集中と社長への営業依存を確認します。
- 工事別採算表:売上、実行予算、実際原価、粗利を照合。資材・労務・外注費の増加や一時的な損益を説明します。
- 単価改定・追加変更一覧:申入日、協議内容、合意日、金額、注文書等の根拠、請求状況を記載。未合意の増額は確定した収益と分けます。
- 回収条件一覧:締日、請求日、入金予定、前払金・出来高払、未収金を整理。外注費や材料代の支払予定と並べ、先行支出を把握します。
- 受注残一覧:契約済み案件の残工事、残原価、工期、担当者を記載。見積提出中・発注予定の案件は別欄にします。
「取引先が一社に集中している」という事実だけで評価を決めるのではなく、契約更新、発注単位、競合、担当者変更の影響を確認します。取引先との関係を引き継ぐために旧代表の同行が必要なら、対象先と期間を譲渡条件へ反映します。
公共工事の資料は経審・入札資格を分けて確認する
経営事項審査は、発注機関による資格審査のうち客観的事項を審査する制度です。入札参加資格や格付と同じものとして扱わず、登録先、工種、期限、届出窓口を一覧にします。制度の関係は関東地方整備局「経営事項審査制度の概要」で確認できます。
建設業許可の承継についても、事業譲渡・合併・分割には事前認可の制度がありますが、対象や組合せに条件があります。入札資格や受注済み契約まで一律に引き継げる前提にせず、譲渡方式を定める際に許可行政庁・各発注者へ確認事項と期限を整理します。参考:国土交通省「建設業者の地位の承継」(PDF)。
候補先へ渡す前のチェックリスト
- 公共・民間、元請・下請の定義が表の中で一貫している。
- 直近3期の集計が決算と合い、差額には理由がある。
- 売上比率だけでなく、粗利、回収条件、繁忙期を説明できる。
- 単価改定と追加工事を、合意済み・交渉中に分けている。
- 契約済みの受注残と将来の見込み案件を区別している。
- 社長退任後の営業・積算・発注者対応の担当者を決めている。
初期打診では、会社を特定し得る工事名や発注者名を伏せ、区分別の構成や得意工種を示します。詳細資料は秘密保持契約に加え、開示先・目的・範囲を確認して段階的に渡します。資料の不足は隠さず、確認担当者と完了予定を記載しておきましょう。
工事別の数字の確認は工事台帳・受注残・工事進行の整理、施工体制は技術者・従業員・重機の引継ぎで詳しく解説しています。資料がそろう前でも、土木会社の売却・事業承継について相談できます。

